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モンテッソーリ教育から学ぶ
自分でできる子になるための
子供のほめ方、叱り方

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『モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士が語る自分でできる子に育つほめ方 叱り方 』著者・島村華子の本書から中身を一部抜粋している記事です。本著の内容が詳しくわかるようになっています。

親の声かけ次第で子供は変わる

家庭でも教育現場でも、子どものほめ方・叱り方というのは難しく、悩ましいものですよね。
どうやって子どもをほめているのか、あるいは叱っているのか、意識して考えたことはありますか?

無意識にこんな言葉を使っていないでしょうか。

■ほめる
「よくできたね!」
「すごい!」
「才能あるよ」
「さすがお兄ちゃん(お姉ちゃん)だね」

■叱る
「どうして約束が守れないの?」
「早く〇〇しなさい!」
「ダメって言ったでしょ!」

じつは「ほめる」「叱る」の声のかけ方次第で、親子関係や子どもの育ち方に大きな影響が見られます。日本人に多いとされる「自己肯定感」の低い子どもは、謙遜文化による「ほめ不足」が原因ではなく、「非効率なほめ方や叱り方」が原因かもしれないのです。

私はモンテッソーリ教育の教員としてカナダで勤務し、「褒美」と「罰」は同等であるだけでなく、子どもにとって本来は必要のないものだと身をもって体験しました。
子どもたちが「ごほうびシール」を得るため、あるいは大人からの罰を避けたい一心に行動したとすると、子ども自身がもっている好奇心や興味を見極めるのは非常に難しくなるからです。
私が教員になりたての頃、早く文字を書き終わった子に対して「すごいね!早かったね!」とほめたことがありました。そのあと、この子どもは毎回のように一目散に作業を終わらせて私のところに見せにくるようになりました。
時間をかけたり、自分の好きなようにアレンジすることもなく、私にほめてほしいがために「早く終わらせる」ことだけに集中するようになってしまったのです。
つまり、ほめるという行為で褒美を与えることは、罰と同じように、無意識であったとしてもやり方によっては子どもたちの行動やモチベーションを外的にコントロールし、その子の本当にやりたいことの妨げになる可能性があるということを教員経験が気づかせてくれたのです。

子どもたちの内から湧きでるモチベーションについてさらに興味が湧き、私は教員生活に終止符を打ち、動機理論に基づく効果的なほめ方について研究を行うため渡英しました。
また、モンテッソーリ教育以外のオルタナティブ教育にも強い関心があったため、さらにモンテッソーリ教育ならびにレッジョ・エミリア教育の効果についても研究を行いました。
両教育方法は、カリキュラムなどのマクロな教育方法では大きく異なるものの、マクロな視点でみた時に、子供に対する尊敬・尊重を基盤にしているという点ではとてもよく似ています。

さらにモンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育ともに、子ども一人ひとりを生まれながらに能力をもち合わせたパワフルな学習者であるだけでなく、権利をもった一市民としてみなします。
これらの「大人がもつ子どもに対するイメージ(見方)」は、この2つの教育方法における支柱です。子どもを独立した市民として見た場合、大人は子どもの「自分でやってみたい」という自主性を伸ばすために、わき役に回り、子どもが探求心を満たせるような環境づくりに励むでしょう。子どもを権利をもった市民として見た場合、大人は子どもの主張を尊重し、ともに学習者であるという謙虚な姿勢を忘れずに子どもと接するでしょう。

このように、大人の子どもに対するイメージが、子どもとの接し方だけでなく、教育理念や大人の役割に大きな影響を与えます。そして、教育ならびに子育てを語ると大人のエゴのためではない、子どものためのほめ方・叱り方を心がけた教育とはどういうものなのか。

さらに大人の期待や評価を押し付けない子育てとはどういうものか。
幼児教育者として、また児童発達学の研究者として、教育理論と研究データに基づいた効果的な声かけを共有したいと思い、本書の執筆に至りました。

この本は、 「えらい」「上手」「すごい」や「ダメ」「いけない」がなぜ悪影響なのかだけでなく、これらの口ぐせから脱却する声かけのポイントをたくさん紹介しています。
また、愛情をエサにせず、子どものすべてと向き合う「無条件な接し方」をするための原則・方法を紹介します。
普段何気なく言っている「ほめ方」「叱り方」の口ぐせを意識して少し変えるだけで、子どもとよりつながることができるようになります。
また自分のもつ子どもへのイメージを少し見直すだけで、「条件付き」から「無条件の接し方」に移行することができるかもしれません。

この本が、手にとってくださったみなさんにとって、子育てや教育現場でのヒントになれば幸いです。
なお、本書のほめ方・叱り方は、3〜12歳を対象としています。

ほめるときの3つのポイント

「すごいね」とおざなりなほめ方もダメ、人中心に、「賢いね」と能力をほめたり、「優しいね」と性格をほめたりするのも効果的ではないとすると、いったいどのようなほめ方をしたらよいのでしょうか。
ほめ方には3つのポイントがあります。

  • 成果よりも、プロセス(努力・姿勢・やり方)をほめる
  • もっと具体的にほめる
  • もっと質問する

1.成果よりも、プロセス(努力・姿勢・やり方)をほめる

子どもをほめるときに大切なのは、能力や性格をたたえるのではなく、取り組んでいる過程での努力や挑戦した姿勢、やり方を工夫した点などに言及し、励ましてあげることです。
たとえば、子どもがテストで100点をとったとします。
「100点とれたなんて、本当に頭がいいね!」とおおげさにほめる代わりに、「100点をとれるまで努力してきたんだね!(努力)」「いろいろなやりかたを試して、答えを導きだせたね!(やり方)」というような声かけをしてあげましょう。
これによって子どもは、もし次のテストで低い点数をとっても、「自分に能力がないから、できなくてもしかたがない」とあきらめるのではなく、柔軟にいろいろな方法を試すことで成功できるかもしれないとがんばれるようになるのです。
もちろん子どもが努力をしていた場面を見ていないとき、あるいはそのがんばりの様子を子どもから直接聞いていないときは、プロセスにコメントするのは誠実さに欠けます。
この場合は、次にご紹介するように、見たままの具体的な感想を共有したり(もっと具体的にほめる)、子ども自身に質問(もっと質問する)をしてみましょう。

2.もっと具体的にほめる

おざなりほめに足りないのは具体性です。
「すごいね」と言われても具体的な理由なしには自分の優れているところ、また努力が必要なところがわかりにくいものです。
たとえば、上司に「いいね!」と言われるのと、「細かいところまで注意を払った様子がよくうかがえる資料で、とてもわかりやすかったよ」と言われるのでは、どちらが自分の長所に目がいくでしょうか。
「よく書けた文章です」と言われるのと、「各章のまとめが的確で、全体に一貫性があって、非常に読みやすい文章だった」と言われるのでは、どちらがスキル向上に役立つでしょうか。
このように具体的なフィードバックをもらった場合のほうが、次のパフォーマンスに向けてモチベーションが自然と上がります。
「プロセスほめ」でも見たように、途中経過の努力や姿勢、工夫などに言及しながら、具体的にどんなところがよかったのかを子どもに伝え、「すごい」の口ぐせから脱却してみましょう。
見たままを具体的に描写するのも手法のひとつです。
「上手」「よくできました」と大人の評価を押し付けることを避け、見たまま(色・形・数など)を具体的に表現してみるのです。
たとえば、子どもがおもちゃのレゴをつくってあなたに見せにきたとします。それを評価したり、おざなりに言うのではなく、具体的に「たくさんの色を組み合わせたら、カラフルになったね!」「ここには違う色を使ってみたんだね!」というような声かけをしてあげましょう。

3.もっと質問する

大切なのは、子ども自身がどう感じたか、どう思ったかということであり、親がどう思うかはそれほど重要ではありません。ほめる言葉を伝えるだけでなく、子どもにどんどん質問しましょう。
質問するときは、「楽しかった?」など「はい」か「いいえ」で答えられるような広がりのない選択解答形式の質問は避けることが重要です。
「どういうものをつくったのか教えてくれる?」など、
会話のキャッチボールができるような自由回答形式の質問をしましょう。
さらに最上級形容詞(もっとも、いちばん)を使って自由回答式の質問をするのも情報を引きだすのにとても有効的です。
「もっとも」「いちばん」という言葉を付け加えるだけで、漠然とした質問から、具体的な質問に変化させることができます。
ここでも具体性が重要になります。たとえば幼稚園や保育園などのお迎えに行ったときに「今日はどんな日だった?」と聞いても「わからない」とか「知らない」と子どもに回答された経験はありませんか。これは、子どもがたくさんあるできごとのなかから情報を整理しきれないからです。
「今日、お友だちと一緒にいて、いちばん楽しいことはなんだった?どうしてそう思うの?」というように的を絞った質問をしてみましょう。

上手な叱り方の4つのポイント

子どもを叱ることは、社会適応に必要な知識やスキルを教えるために必要なことであり、罰を与えて子どもの行動をコントロールするために行うものではありません。
子育てにおいて、上手に叱るというのは、上手にほめることよりも難しいことです。
特に子どもが言うことを聞かないときや癇癪を起こしているときは、親もイライラしてしまって、感情的な対応をしてしまうこともあるでしょう。
では、子どもとつながるためには、どのような叱り方をしたらよいのでしょうか。 次の4つのポイントが大切です。ほめるときと本質的に共通する部分が多く感じられると思います。

叱り方 4箇条

  1. 「ダメ!」「違う!」をできるだけ使わない
  2. 結果ではなく努力やプロセスに目を向ける
  3. 好ましくない行動の理由を説明する
  4. 親の気もちを正直に伝える

無理しない子育てを!

現代の親、特に母親にとって、社会が期待する「完璧な母親像」というのは大きなプレッシャーです。
母乳をあげるべき、料理をするべき、キャラ弁をつくるべき、送り迎えをするべき、手づくりするべき、家事をするべき、家族の面倒を見るべき、家にいるべき、産休をとるべきと、例をあげればきりがありません。
この「母親は〜しなければいけない」という無言の社会的プレッシャーは、母親の罪悪感や劣等感、ストレス増加、そして極度の疲労に大きく関係しています。これは多大な期待をされている場合、人は失敗やミスに対する恐怖心に煽られ、不安に感じることが多くなるからです

「理想の母親像」のプレッシャーと罪悪感

「理想の母親像」のような社会的規範は守れば守るほど社会的に認知され、逆に逆らえば逆らうほど社会的に批判されるという構造があります。当然、いわゆる「理想の母親像」に到達していないと自分で感じている場合、罪悪感を覚えるでしょう。
そして同僚や家族などの周囲から心ない声をかけられるたびに、自分は理想からほど遠いダメな母親なんだという思いが強まってしまいます。
残念ながら、「ふつう」に「みんなと同じ」ようにふるまうべきだという考え方は、自己の社会におけるアイデンティティを保つために日本では根強く残っています。言うまでもなく、もうすでに十分がんばっているお母さんたちにとって、この「理想像」のようにというのは苦しいものなのです。

親自身が幸せであることが大切

異国文化間の交流や人材の流通が盛んになり、日本も集団主義から、自分のゴール・思考・感情を主体とする個人主義に徐々に移行しつつあります。
個性や多様性を尊重する考え方が受け入れられつつある一方で、「理想の母親像」などといった社会的規範も根強く残っているのも日本の現状です。さらに多くの日本人が、個人主義は人間関係を壊す可能性があるという見方をしているのも事実であり、個人尊重と社会的規範の間に摩擦が生じているのです。
もちろん、「こうであるべき」という同調圧力は母親に大きなストレスを生みだします。そして子どもに対するイメージが大人の感情や行動の根源であると同様、自分自身が抱く「親に対するイメージ(見方)」も自分への感情に大きな影響を与えます。
つまり、「母親はこうあるべき」という社会の親に対するイメージを自分自身が信じれば信じるほど、そうでない自分とのギャップに苦しんでしまうことになります。たとえば、「母親は子どもと一緒の時間を過ごすべき」というイメージが自分の中で強ければ強いほど、一緒の時間を過ごせない自分に苛立ちや焦りを覚えるでしょう。
実際に仕事と子育ての両立で焦ったり罪悪感を感じたり、あるいはストレスを感じている母親と一緒に時間を過ごすほうが、子どもの心にネガティブな影響があることがわかっています。
つまり、母親自身の心の満足度が高い状態であることが非常に大切だということです。
親自身が幸せであれば、子どもに与えられることも増えるでしょう。
「完璧でなくもいい」「お惣菜をうまく使って料理をするのもあり(手づくりでなくてもよい)」「失敗をすることもある」と自身が抱く親に対するイメージを変えるように意識してみれば、自分にもっと優しくできるかもしれません。
そもそも全力でがんばっているのですから、「手抜き」なわけはないのです。そして一人でがんばる必要もないのです!

親も人間。全部完璧にやろうとしなくていい

新しい命を授かり、親になるということは尊い奇跡であり、人生においての大きなイベントです。
子どもをもつことでいままでに経験したことのない喜びや幸せを経験するとともに、子育てのイライラや不安を感じるのも現実でしょう。
仕事との両立、経済的問題、社会制度の欠落など、みんなにいろいろな事情があります。完璧な親なんてものも存在しません。
親も人間です。一人の人間だった個人が、子どもという命に恵まれた結果、「親」になっただけで、一晩でいままでの価値観や考え方、欠点や習慣がドラマチックに変わるわけはありません。感情に振り回されるときもあるでしょう。子どもへの気もちが自分の心の余裕によって変わってしまうのも現実でしょう。

本書で「ほめる」「叱る」などコミュニケーションにおいてさまざまなポイントを 紹介してきました。誰のための子育てなのかを考え、大人の都合を押し付けずに子どもと接することはとても大切です。
ただ、全部やろうとしなくてよいのです。親自身の中に湧きでる感情を押し殺して仏のように子どもの行動を受け入れる、あるいは受け入れるふりをする必要はありません。毎回、毎秒、無条件な子育てができる人なんていません。たまに人中心に子どもをおおげさにほめたり、イライラして叱ったところで、子どもがダメになるわけではないので安心してださい。

子育てに絶対の正解はありません。
本書も一学者が好きで熱中して研究した内容を読者のみなさんと共有させてもらったに過ぎません。少しでもみなさんの気づきに貢献できたなら、考えるきっかけになれたならそれで十分です。
罪悪感を覚えたり、ダメだったと一日の終わりに反省することは人間誰でもあると思います。反省・成長を繰り返しながら、自分にできることをできる範囲でやる、ふに落ちたことをやってみる、そして我が子をたくさん愛してあげる、そんなリアルな子育てでいいのだと私は思います。

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今日からできる「声かけ」でイライラが笑顔に変わる!

自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方

自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方

著 |島村 華子 1650円(税込)

ページ数:200ページ
発売日:2020/4/17
ISBN:978-4-7993-2599-5

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著者紹介
オックスフォード大学 修士・博士課程修了(児童発達学)。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者
上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡りモンテッソーリ国際協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、 オックスフォード大学にて児童発達学の修士、博士課程修了。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わる。 専門分野は動機理論、実行機能、社会性と情動の学習、幼児教育の質評価、モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育法。

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モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育ともに、子ども一人ひとりを生まれながらに能力を持ち合わせたパワフルな学習者であるだけでなく、権利を持った一市民として見なします。
巻末には気になるQ&Aを掲載。
「うちのわんぱく小僧にこんな叱り方で効果あるの?」「子どもの偏食、どうすればいい?」など、思わず共感する悩みに、著者がエビデンスからズバリ答えます。

目次とキーワード
第1章
─ 親の声かけ次第で、子どもは変わる
第2章
─ 自分でできる子に育つほめ方
第3章
─ 自分でできる子に育つ叱り方
第4章
─ 子どもとつながる聞く習慣
第5章
─ こんなとき、どうすればいい?Q&A