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インタビュー

Vol.1
「自分と向き合う時間をつくる」ことから
経営者の本づくりが始まる

株式会社コーチ・エィ 代表取締役社長/エグゼクティブコーチ
鈴木 義幸 様

株式会社コーチ・エィ 代表取締役社長/エグゼクティブコーチ 鈴木 義幸 様

Profile

慶応義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒業
株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務後、渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、有限会社コーチ・トゥエンティワン(のち株式会社化)の設立に携わる。
2001年、株式会社コーチ・エィ設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月より現職。

主に法人向け組織開発型コーチング事業を展開する企業で、これまでに200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施してきた鈴木様。会社運営という舵取りを行う一方で、出版した書籍は累計20冊以上。多忙な日々を過ごす中で、なぜ貴重な人生の一部を本づくりに割くのか。本づくりにかける想いと、本が持つ可能性について聞いた。

テーマは日々の業務の
中から生まれる

書籍の制作にとりかかる際、テーマはどのように決めていますか?

書籍のテーマはだいたい日々の業務の中から生まれます。
私は仕事柄、経営者の方とお話をすることが多いのですが、その中で相手が悩みや課題についてお話されることがあります。複数の経営者から同様の話を聞いたりすると「それはもしかしたら世の中の多くの経営者が抱えている共通の悩みなのかもしれない」と考えるようになります。それがテーマを決める重要なファクターとなっています。

たとえば2020年12月に出版した『未来を共創する経営チームをつくる』では、メインテーマを「チームの共創」に据えました。複数の経営者から「いい経営チームをつくりたいんだけど、なかなかうまくいかなくって……」という相談を受けたことがきっかけだったのですが、話を聞いているうちに「今書くべきテーマかもしれない」と思えたのです。

どのような点から、そうお考えになったのですか?

幹部層の軋轢やリーダーの不在、不明瞭な役割分担など、経営チームに課題を感じている企業は昔から少なくありません。昨今では特に経営者の高齢化が進み、事業承継を行う企業は増加傾向にあります。
新たに就任した経営者の多くは、自分より年上のベテラン社員が経営チームに入っている状況に困惑していたり、言いたいことが言い合えないチームになってしまっていたりする。こうしたことから、今この時代に経営チームに関する本をつくる意味があると感じました。また、本書で伝えるべきメッセージも明確になっていきました。

『未来を共創する経営チームをつくる』が伝えている読者へのメッセージはどのようなものですか?

「共創することの価値を正しく伝えたい」です。
経営チームが同じ目標に向かって共創できていれば、回避できる問題は数多くあります。
事業承継後の経営チームに起こりうるトラブルや、逆に、長年会社を運営している経営チームが抱える問題など、その内容はさまざまです。私は本書を通じて、こうした問題を回避したり、解決に導いたりするためのお役に立てるのではないか、と考えました。

未来を共創する 経営チームをつくる
『未来を共創する 経営チームをつくる』
2020/12/18 鈴木 義幸 著
ディスカヴァー・トゥエンティワン

執筆にあたり、アウトプットはどのようにしていますか?

私の場合、通常勤務がない土日に2時間ずつ、机に向かう時間をとるようにしています。
それを10年くらい続けていることになるのですが、この習慣は得るものがとても大きいと思っています。
たとえば、ウィークデーに得た情報やアイデア、掘り下げるべき話題などを書き留めておいて、週末に机に向かいながら整理するのです。そして、キーボードに手を置いたら、あとは手が勝手に書き進めている、という感じです。

毎週決まった時間に机に向かう、という習慣は、慣れるまでは窮屈に感じる人もいるかもしれません。
しかし、日々さまざまな職務に追われている経営者にこそ、おすすめしたい習慣です。
机に向かうということはつまり、自分と向き合うこと。
週に一度でも、立ち止まってその週を振り返る時間をとるだけでも意味があると思います。

「文字にする」ことの
大切さに気づく

本をつくる、執筆をすることで改めて気づくこともありますか?

たくさんありますね。自分の経験や理念を口にして伝えることが得意な経営者は多いと思います。
しかし、それらを改めて文字で表現しようとすると、意外と難しいことに気づくと思います。
「なぜ、あの時あの判断を下したのか」「なぜ、あの時あんなに大変な経験をすることになったのか」「なぜ、あの時……」を文字にすることで、過去の経験や行動を振り返り、自分に問いかけることができるのです。
すると、一つひとつは点でしかなかった行動のすべてが、実は「自分の中の信念に従っていたからだ」と一本の線になっていくイメージが湧いてきます。

それは執筆をしたことがない人にとっては難しいことではありませんか?

最初は誰かに読ませるための文章である必要はないと思います。
日記をつけるように、自由にアウトプットをしていく、というイメージでしょうか。点と点がつながって、一本の線になれば、それがストーリーになっていきます。まずはそれができるようになり、習慣にするところまでが重要だと思っています。最初から「本を書く」と考えるとハードルが高いように感じられますが、あくまで「自分の考えや行動を文字にする」作業と考えると、気軽に始めることができるのではないでしょうか。

出版社や編集者とのやりとりは難しいのでしょうか?

私の場合、執筆しながら全体の構成を考えていくのが性に合っている気がしています。
ただ、誰もが同じように書き進める必要はありません。
文章を書くことに慣れていない方は、まずは机に向かうことを習慣として続け、ある程度まとまりそうだと思えば出版社や編集者に声をかけ、プロの視点を入れるとよいのではないでしょうか。
自分の中でまとまったと思った文章も、編集者の客観的な視点でフィードバックを受けることはおすすめです。
そうやって多くの人に「伝わりやすい文章」をつくることができるのは、すべてを自分自身で行う自費出版と大きく異なる点です。

また、多くの経営者にとって本をつくることは「重要ではあるが優先度は高くない」ものだと思います。
すると忙しい日々の中でどうしても後回しになり、いつの間にか頓挫してしまう、ということも十分考えられます。
そんなとき、担当の編集者がついていれば、進捗を確認してくれたり、アドバイスをくれたりします。
特に初めて出版を検討している経営者ならなおさら、なんでも相談できる編集者をつけることをおすすめします。
伴走者がいるだけで、心が折れることなく本づくりに向き合い続けることができるのだと思います。

本記事のまとめ

  • 執筆のテーマは日々の業務の中にある
  • 想いを文字にすることで新たな発見がある
  • 第三者視点を交え「伝える言葉」に変換する