いじめ・自殺 この30年で何が変わり、何が変わらないのか

いじめ・自殺 この30年で何が変わり、何が変わらないのか

著 | 宮川俊彦
1100円 (税込) ※1

ページ数:208ページ
発売日:2013/4/12
ISBN:978-4-7993-1308-4

Product description 商品説明

いじめる子を悪者にすれば済むのか?
学校や教師を責めれば済むのか?
親を訴えれば済むのか?

子どもの「いじめ・自殺」問題がマスコミで大きく報道されるようになって 30 年が経過した。しかしまったく本質的な解決には近づいていない。「いじめはいけない」「いじめる子が悪い」「学校と教師が悪い」といった単純な善悪の決めつけや感情的な批判が繰り返されているにすぎない。そこから脱却すべきだ。親と教師のあり方次第では「いじめ」はいじめる側といじめられる側双方の子どもが自分を分析し変えていく機会になり得る。一方で教育全体や社会をつくり直すことも必要だ。今なすべきは、感情を排して冷静かつ論理的に考察することなのだ。27 年前、すでにこの問題の真実を追究し世に衝撃を与えた『このままじゃ生きジゴク』の著者、渾身の提言!


(「あとがき」より)
いじめ・自殺はここまでの大半の人生で関わり続けた問題としてある。ジャーナリスト的な関心としてでなく、表現教育者・分析者としての関心としてである。一貫して四半世紀前から「いじめられる側の傾向」は指摘していた。嚆矢でもあった。これは DV でもそれを誘発する傾向、それを見出す側の傾向があるということにも通底する。妙に配慮してそれを綺麗ごとで隠蔽して克服策を強引に推進してしまおうとするが、かえってマイナスを生じたりする。

このあたりを露わにして探求していく作業が一部の先覚的な専門家に閉所的に委ねられていることは仕方ないことだが、迂遠だという思いもある。今日のいじめ・自殺理解や対策論に疑問を感じる有為で先験的な人々(子どもも含まれる)に光を当てない。静々と堅固に、積み上げられ研究され語られなくてはならない。世のお調子者や歓心を買うだけの為政者や一部知識人はそれに与しない。理解して敢えてする作為もない。この浅薄さがこの種の問題をより複雑にし、解決は無理としても克服への方途すら導き出せない。

問題とはそれを形成する基本要素に分解してその要素をそれぞれ主語として述部を作り上げる地道な作業をしなくてはならない。そこに「こうあるべきだ」という結論が厳然としているとしたら、文型は定まってしまう。もっとダイナミズムがあっていいし、思索の上での極端さや冒険が介在していい。正解を探して評価されようとする世渡り上手の者たちにそれを任せたらロクなことにはならない。もうそれは自明のこととして国民は暗黙の裡に認知しているのではなかろうか。なんとかならないか。思いだけが募るが、さしたる対策も効果もない。自分で何とかしなくてはと基本の認識に辿り着くが、それを愛でそれを支援するだけの方法は乏しく簡便さに向かう。

本書で特に指摘したのは「社会化」の欠落である。それと共に教育の内実としての知識を凌駕するほどの人間探究の必然とそのための多元的観点の確保。いわば教育内容の再編必至という点である。教科体系は普遍ではあり得ない。むしろ徹底して改変していい。それは福祉的側面、生活指導側面の強化以上に先行させるべきものと考える。

この問題だけを取り上げて論ずるのはさしたる意味はない。根底は我が国の戦後の立国と社会形成に根差している。国民的問題の一現象としてある。早計な結論や対策で口を拭うべきではない。既定の路線で何らかの対策論は法制化される。文部科学大臣も総理も、それについて「断腸の思いだが……」とコメントは差し挟むべきだ。一体この国の教育は何であったか、国民は肝心な足許を培うことを忘れて自他の関係を構築し社会を建設していく意志を棚上げしてきた。その過程で生じた現象だと。

この間「体罰」も問題視され断罪されている。基本構造はいじめと似ている。体罰自殺。この短絡も厳密には論証できない。しかし独り歩きし政治的に利用されていく。「暴力は駄目。話し合いで」と戦後よく言われた。その割に暴力的な社会が出来ている。きっと「言葉の暴力」も声高に語られるに違いない。しかしそういう一連のルール化は暴力とはみなされない。異質、異論、異端、異常識の排除は着々と進む。過去の一揆や暴力革命はたぶん、その時の国民の知性の水準として暴力にしか訴えられなかったのだろうとでも解釈されるのではないだろうか。

心情として自己防衛的として「正しい」と思うことが繰り出されることで、気がつけば自分の首を締めることになるのもよくあることだ。ルール・法制化にただ従順ではいけない。人のためのものだ。片務的なものではない。この国民は何か勘違いしている。小金を得、ちょっとした贅沢を知った、知識だけ権利意識だけの小作人であってはならないと思う。

いじめ自殺・体罰。これらの問題は深耕の上にも深耕すべきだ。安易に論ずる者に注意しなくてはならない。調整的な施策は必ず頓挫する。

Author description 著者情報

宮川俊彦

1954年、長野県に生まれる。表現教育者・国語作文教育研究所所長。「とっちゃまん」の愛称で親しまれている。
作文・表現教育の第一人者として、小中学生から大人まで200万人余の作文を分析し指導、表現教育全般の基本理論を構築・実践している。
大学の教授・副学長・政府関係委員など歴任。NHKテレビラジオのコラムを担当の後、テレビキャスターを経て、評論家・寓話作家としても知られる。著作は、『いじめ・自殺 この30年で何が変わり、何が変わらないのか』(ディスカヴァー携書)をはじめ、120冊を超える。
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